出口王仁三郎著『霊界物語』
第六章 浮島の怪猫(3)
甲『成程承はれば承はるほど、今日の世の中は不安の空気が漂うてゐるやうです。今の人間は神仏の洪大無辺なる御威徳を無視し、暴力と圧制とを以つて唯一の武器とする大黒主の前に拝跪渇仰し、世の中に尊き者はハルナの都の大黒主より外にないものだと誤解してゐるのだから、天地の怒に触れて、世の中は一旦破壊さるるのは当然でせう。私はウラル教の信者でございますが、第一、教主様からして、……神を信ずるのは科学的でなくてはいかない。神秘だとか奇蹟だとかを以て信仰を維持してゐたのは、太古未開の時代の事だ。日進月歩、開明の今日は、そんなゴマカシは世人が受入れない……と言つてゐらつしやるのですもの、丸切り神様を科学扱ひにし、御神体を分析解剖して、色々の批評を下すといふ極悪世界ですもの。こんな世の中が出て来るのはむしろ当然でせう。貴方は何教の宣伝使でございますか。神様に対する御感想を承はりたいものでございますな』
梅『最前も申上げた通り、斎苑の館の大神様は三五教を御開きになつたのです。そして私は同教の宣伝使照国別様といふ御方の従者となつて、宣伝の旅に立つたものでございます。それ故貴方等のお尋ねに対し、立派な答は到底出来ませぬ。しかしながら神様は昔の人のいつたやうに、超然として人間を離れた者ではありませぬ。神人合一の境に入つて始めて、神の神たり、人の人たる働きが出来得るのです。故に三五教にては、人は神の子神の宮と称へ、舎身的大活動を、天下万民のためにやつてゐるのです』
甲『何か御教示について、極簡単明瞭に、神と人との関係を解らして頂く事は出来ますまいか』
梅『ハイ、私にもまだ修業が未熟なので、判然した事は申上げ兼ますが、吾宣伝使の君から教はつた一つの格言がございますから、これを貴方にお聞かせ致しませう。
神力と人力
一、宇宙の本源は活動力にして即ち神なり。
一、万物は活動力の発現にして神の断片なり。
一、人は活動力の主体、天地経綸の司宰者なり。活動力は洪大無辺にして宗教、政治、哲学、倫理、教育、科学、法律等の源泉なり。
一、人は神の子神の生宮なり。しかしてまた神となり得るものなり。
一、人は神にしあれば神に習ひてよく活動し、自己を信じ、他人を信じ、依頼心を起す可らず。
一、世界人類の平和と幸福のために苦難を意とせず、真理のために活躍し実行するものは神なり。
一、神は万物普遍の活霊にして、人は神業経綸の主体なり。霊体一致して茲に無限無極の権威を発揮し、万世の基本を樹立す』
甲『イヤ有難う。御教示を聞いて地獄から極楽浄土へ転住したやうな法悦に咽びました。成程人間は神様の分派で、いはば小なる神でございますなア。今までウラル教で称へてをりました教理に比ぶれば、その内容において、その尊さにおいて、真理の徹底したる点において、天地霄壌の差がございます。私はスガの港の小さい商人でございますが、宅にはウラル彦の神様を奉斎してをります。しかしながらこれは祖先以来伝統的に祀つてゐるので、言はば葬式などの便利上、ウラル教徒となつてゐるのに過ぎませぬ。既成宗教は已に命脈を失ひ、ただその残骸を止むるのみ。吾々人民は信仰に飢渇き、精神の道に放浪し、一日として、この世を安心に送る事が出来なかつたのです。旧道徳は既に已に世にすたれて、新道徳も起らず、また偉大なる新宗教も勃起せないと云つて、日夜悔んで居りましたが、かやうな崇高な偉大な真宗教が起つてゐるとは、夢にも知らなかつたのです。計らずも波切丸の船中において、かかる尊き神様のお使に巡り会ひ、起死回生の御神教を聞かして頂くとは、何たる、私は幸福でございませう。私の宅は、誠に手狭でございますが、スガの港のイルクと云つて、多少遠近に名を知られた小商人でございます。どうか、私の宅へも蓮歩を枉げ下さいまして、家族一同に、尊き教をお授け下さいますやうにお願ひ致します。そして私はこの結構な御神徳を独占せず、力のあらむ限り、万民に神徳を宣伝さして頂く考へでございますから、何卒よろしくお願ひ申上げます』
梅公『実に結構なる貴方の御心掛、これも大慈大悲の大神様の御引合せでございませう。これを御縁に、私もスガの港へ船がつきましたら、貴方のお宅へ立よらして頂きませう。
思ひきや神の仕組の真人は
御船の中にもくばりあるとは。
この船は神の救ひの船ぞかし
世の荒波を分けつつ進めり』
(大正一三・一二・二 新一二・二七 於祥雲閣 松村真澄録)